2013年02月04日

時の娘よ、いざ来たれ。

 英国中部レスターでリチャード3世の遺骨が発掘・確認されたとの報を目にして深夜に大興奮。かつてミステリ『時の娘』で史実は教科書で読めるものとは限らないと目から鱗を塊で落としてもらった、その当人だぜいえーい!(いや、実際は作者のジョセフィン・テイにだけどさ)今後、正確な容姿・病状・死因などなど骨から分かる事実も山ほどあるだろうし、これがワクワクせずに居られようか。
 そしてまた、埋葬された教会そのものが所在不明になってたのを発見して地下を捜索、出てきた遺骨をヨークのアンの子孫(これがまたカナダに血脈を繋いでるとか!)のDNAと比較とか、短くまとめられてる経過が興味深すぎる。つかこれだけで1冊の本が書けると思うんだ、古文書・伝承と最先端科学がタッグを組んでの冒険譚、ぜひぜひ上梓してください予約します。

 で、久々に読み返したくなったものの書庫の底に沈んでいる手持ちを探すよりはとamazon検索。おお、再版してたのか。と思ったらkindle版もあるじゃないですか。この正月にセルフお年玉にした端末にDLしましたよ。しばらく通勤に付き合ってください、陛下。






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2012年10月03日

つぶやき:いまはこひしき

ginmantei 『大奥 8』を半分読んで置いてきた。早く帰って続きを読みたい、しかし了えてしまうのが勿体無い、アンビヴァレンツなう。虚実とりまぜてきっちりしっかり構築された人の営みの積み重ねがそのまま歴史の流れになるのが見えて、かつは個々の物語がバラエティに富んで面白いときたもんだ。毎度凄いな。 at 10/02 09:56



ginmantei スタバにゅっと。外テーブルではホットが美味しい季節になりました。 at 10/02 19:13

ginmantei @ariahisaeda 現在気温20度、余裕で屋外半袖でございます。カフェモカんまいっす。 at 10/02 19:36

ginmantei @ariahisaeda 熊襲と蝦夷の間には〜♪深くて広い川がある〜♪ということでw 生産地による差はあるものですな。 at 10/02 19:46

ginmantei 本日これより相方と、デートに名を借りた物欲神の礼拝に。会場はヨドバシカメラ、御神体はネクサス。人身御供が私の可能性大orz at 10/02 19:48

ginmantei @sumirekoyama @suzunyan07 @sPana_enne 必然的に晩飯もオゴリなので、財布が失血死する悪寒が。信仰とはかくも厳しいものなのです。 at 10/02 20:04

ginmantei ただいま。ショウロンポウとチャーハンとビールで腹いっぱい。 at 10/02 22:49



 そして相方はネクサス7の誘惑に負け(ただし現物未着のため予約)私は帰宅して『大奥』をむさぼり読んだ。結果、重苦しい満足感とこれからへの期待が大爆発。
 前半は吉宗の最期にまつわるもの。ライバルたちの連続死については巷説とかく疑われているが、ここでの解釈は忠義というものの在り様まで考えさせる。「常にお手討になる覚悟で」主とともに道を切り開く心の持ち方、サムライなのだよな。既に性別の如何を問わず。
 吉宗については死の直前まで米相場を気にかけそれを書き付けた紙束を握り締めて死んだという説もあるだけにどうなるか気がもめるところであったが、続く時代に望みを託し穏やかに去る姿に安堵。信様お疲れ様でした。
 そしてこれから…いよいよ田沼時代だぜひゃっほう!江戸時代最高の革新政治家だったと思っているので、どう描かれるかがひたすら楽しみだ。待ちきれん!うおおお!次を読ませろ!早く読ませろ!




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2012年03月29日

世界の半分を貰ったら

 友人に薦められ『竜の学校は山の上』を読む。いいよ、これ!
 絶滅危惧種・竜の保護をさりげなく現実世界の生き物たちに重ねて読ませる表題作はじめ、ケンタウロスと人間(馬人と猿人)が混じって暮らす現代日本や、御伽草子と鏡花をミックスしたような昔話、RPGで魔王が倒された後の世界のアイロニーに充ちた顛末などがしずかな筆致で語られる。触れたらばっさりな切れ味は無いけれど、素朴な絵柄あいまって気持ちに沁みる作品群だ。
 特に魔王亡き後の世界を描いた数作には、好きだったゲームを思い出させられた。そういえばあの世界でも、本質的な敵は魔ならざる者だったなあ。

 なお作者サイトでは本書中2編を公開している。ぜひぜひ、一読をお勧めしたい。んでもって「いいなぁ」と思ったら書店へ走れ。重版出来であるぞよ。

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2012年03月24日

赤いイワシが多すぎる

 『今をたよりに』。グレイス・アンド・フェイヴァー・シリーズ、待望の新刊。だったんだが、今回出だしがよかっただけに若干しおしおのぷー(古語)である。
 いつもながら雑多な問題を抱えつつ、遺産の条件である仕事探しに余念の無い主人公兄妹。(現代に至るまで)郵便制度のいーかげんなアメリカゆえの問題を発見し、それを職業として成り立たせようと奔走するうち事件が起きて…といつものパターンなのだが、このパターンを作者・チャーチル女史が打破しようと四苦八苦したものなのか、話が進むにつれどうにもグダグダした印象になっていくんだなこれが。
 ミスディレクションをばら撒くのはいいんだが、一番最初に疑わしく思える人物のところへ話が流れずイライラする。ちょうど『かまいたちの夜』をやってて、フラグが揃ってないと真犯人を指定できないあの感じ。そして後半で登場するあるキャラクターが、どうにもチート臭。デキスギ君にもほどがないか、キミ。でもってラストまでその勢いが削がれないもんだから、場外から乱入して1番でゴールを決められちゃいましたてへぺろ☆みたいな座りの悪さが読後に残ってなんともいえん。
 ぶっちゃけ、大恐慌から第二次世界大戦前夜のアメリカの田舎町の空気が感じ取れる以外は、ミステリとしてもキャラものとしてもいま一歩ではないかと。遠くに迫る暗雲を眺めてみたい向きかな。

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2012年03月20日

あまざかる ひなからみれば

 かつて『動物のお医者さん』に憧れたとH大獣医学部に押し寄せた受験生を見て、我ら道民は少なからず苦笑した。あのさっぱりした画と軽やかなストーリーの余白がどれほど重い(或いは臭い)現実で埋まっているか、読みきれずに来た子等も多かろうなと。
 『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』にもまた然り。つかアレ読んでおいて放牧場を勝手に見に行った馬鹿がいると聞いて始末におえんなと。あれだけしっかりみっちり馬の性質と育成の苦労について語られてるものの、いったい何処を読んでたんだクソだわけがぁッ!

 そうして三度、蝦夷の民が内地の読者を笑おうとして、いや待てこれは誤読曲解のしようが無いぞつか大袈裟に描いてると思われるんじゃないかいいからそのまま真に受けろよ生き物相手の仕事ってなぁ半端じゃ出来ねえよついでにホッカイドーは怖いとこだぞとうんうん頷いたのが『銀の匙 Silver Spoon』。『百姓貴族』もぜひ併せてお読みください、な北海道酪農事情物語である。
 自分の行く末にビジョンをもてないという、中学生としてはごくアリガチな少年が、しかし問題をはらんだ家庭から逃れるために選んだ全寮制の酪農高校での生活。都会ではありえない出来事頻出つか爆出、動物の命を扱う=食う仕事のリアル、もう地に足が着きすぎて、原住民にとってはほぼ意外性の無い話になっている。つか生粋の酪農家生まれの作者がよくぞ余所者視点で描いておられるなと、そっちに感心するぐらいか。鹿を撥ねたぐらいじゃ驚けないもんね、フツー。


 ところで作者・荒川氏といえば『鋼の錬金術師』でメガヒットをかっ飛ばし、その後も『百姓貴族』や本編で読者を沸かせる傍らで二児の母となっておられたとか。マグナ・マーテル的な逞しさにも感服であるめでたやな。
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2012年02月11日

**小説

 約1ヶ月半ぶりの休日。

 12月の半ばに親族が急死してからこっち、平日は通常業務、休日は全てあちらの片付けに追われて過ごしてきた。ただ死んだだけならまだしも変死ファクターまでオマケとあっては、事後処理もイレギュラー三昧である。あのな、こちとらレギュラーでも仕切った事が無いんだよ勘弁してくれ。
 葬儀の手配に警察の対応、相続財産の整理に諸手続き、やる事は多岐に渡りしかも煩雑である。およそひと一人が生きるのも難儀なものだが、死ぬのもなかなか面倒なものだと痛感するばかり。自分の時は相方に迷惑のかからぬよう、せいぜい片付けておくとしよう。ま、当方が死んで残るものといえばヲタグッズとかヲタグッズとかヲタグッズとかだけどな。

 とまあ、そんな流れの末、今日はそれらがひと段落して久々に解放されたわけである。しかも3日連続!
 いいだけダラダラ寝て、積みあがった本と録画ものを処理するぜ!

 とか思ってたら献血センターからメールが来た。管区内で大手術があって200人分を使ったので、登録者はぜひ来て欲しいとのこと。80リットルかあ、エリザベート・バートリの足湯ぐらいか?とか思いつつ、手近にあった文庫本を掴んで出かける。モノは『怪笑小説(東野圭吾・著/集英社文庫)』。
 そして帰宅して、だらだら寝転びかつ転寝しつつ残る3冊(黒笑小説・毒笑小説・歪笑小説)を読み終えた。



 瞠目し膝を打つような意外性や突飛さは、正直言って少ない。いまどきヤングw風にいうなら「フツーに面白い」というところ。短編にはそのテのファクターを求めがちな私としては、あまり読みつけなかったタイプだ。
 しかし、人を逸らさない。話の途中で本を置かせない不思議なヒキの強さがある。この人、とにかく読み易い文章を書くんだよな。
 また興味深いのは、作風の変遷だ。初期のそれは、何か、思い出させる微妙な感触がある。で記憶の底を掘ってみたら、古きよき時代のSF作家たちに似ているのだ。特に電車の中の情景を活写した1編など、筒井康隆の斜め視線を小松左京がきちりとした文体で書いてオチは星新一がつけました、みたいな味わい。
 それが近年になってくると、毒が消え棘が影をひそめて視線がやさしくなる。特に最新刊での出版業界の人々を描く筆はコミカルな中に情があって、単にネタとして弄ってるだけではないなあと思わされる。思うに男性作家にはこの傾向が強いような。あ、いや、世の閨秀作家が歳を重ねるにつけ苛烈誅求になってくるなどと言うつもりはありませんが。ありませんってばよ!
 とまれ、4冊セットで、巻末までじっくり読み込む本好きにお勧めしたい。あ、もちろん買うこと前提だ。貸さないからな。←最終作ネタ
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2011年07月16日

もう幾つ寝るとクリスマス

 雨で強制電車通勤になったので、積読山脈の奥地から1冊。『メリー殺しマス(コリン・ホルト・ソーヤー/著、中村有希/訳、創元推理文庫)』。





 年齢を重ねて知識豊かで思考に奥行きがあり、行動も落ち着いた御婦人がた…とはまるっきり反対の婆様ズ(あ、いや失敬)は、巻を重ねてますます勝手で怖いもの知らず。殺人事件に文字通り体を張って挑み、自分がホトケになる瀬戸際まで横車を押し突き進む。そう遠いことじゃないけど急ぎすぎ…いや何でもありませんよ何でも。まぁ毎度そうじゃんっちゃーそれまでなんだけど、お年のいったローティーンみたいにはっちゃけたオバアサマのこれが本筋、お約束として楽しむモンだわな。
 あと今回、ゲストキャラクターが美味しい。マフィアの時代を生き抜いたヤバい爺さんってだけで琴線触れまくり。なんたって映画では『アンタッチャブル』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』、テレビでは『CSI』の「ラストショー(Kiss Kiss, Bye-bye)」が五指に入る好きエピソードであり、本邦コミックでは『伯爵と呼ばれた男』を手ずれがするまで愛読しまくった事がある身としては、老いてなお骨の髄までヤバいこういう手合いにはワクワクさせられる。ベッドの下にバット隠してそうなタイプが好みの人にはぜひお勧めしたい。
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2011年06月23日

愛って何か知ってる?

 タイトルはそのスジの人には言わずと知れた名作SFの台詞だが、未来でなくても荒廃は世界の至るところを蝕んでいる。戦地で、災厄に見舞われた土地で、或いは大都市の片隅で。
 ──地獄は個々の内にあると言ったのは、誰だったか。

 『コーパスへの道(デニス・ルヘイン/著、加賀山卓朗・他/訳、ハヤカワ・ミステリ文庫』は、表題作含めさのみ新味の無い短編集だった。
 ただ中に1編『グウェンに会うまで』で戦慄めいた感動に叩きのめされるまでは。




 こいつは、凄い。

 …物語はシンプルだ。犯罪者父子の暗いロード・ムービー的なもの、互いに語る過去に綴り合わせるものひとつない殺伐。徐々に形を見せてくる互いの目的。そしてラスト、そこから誰一人何一つ得ることの無い暗澹たる終幕に。

 紛れも無い愛の本質を突きつけてくる。

 翻訳の妙あって、本気で泣かされた。キングの『ペット・セメタリー』が、あのページ数を積み上げて最後の1ページにもってきた爆弾を、この紙数でぶちかまされようとは思わなかった。
 もっとも、これを戯曲化した一編を直後に持ってくるのはいささか屋上屋、艶消しのような気がしないでもない。己を知るもの誰一人無いと悟るほどの孤独、真の地獄を抱いた主人公に過去も未来も最早ありはしないのだから。
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2011年05月22日

不気味の瞳は1万ボルト

 『眺めのいいヘマ(ジル・チャーチル/著、新谷寿美香/訳、創元推理文庫)』を読む。




 名探偵(でもないか、この場合は?)が動けば事件が起きるのは天の定めるところ、家事の間だろうが仕事中だろうがコトは変わらない。かくて我等がジェーンがプランナーを引き受けた結婚式では、見事に人死にが起きるのであった。めでたくなし、めでたくなし。
 今回は個性的にもほどがあるサブキャラクター群が面白い。横溝ネタまではいかないが奇矯な一族と、それを取り巻く人々のギスギスぎくしゃくっぷりは、結婚式という一大イベントに向かう緊張感をいや増しに盛り上げてくれる。そして事件解決をみた後に、またいい味出してくれるんだこの●●●が!

 浅羽莢子氏の衣鉢を継いで軽妙な訳も読みやすかった。ただ、ヒロインと親友の口調に若干違和感を感じたのだが、これはどうなのかな。確かにイマドキ主婦なのだから、まぁこんなもんかな〜とは思わないでもないけれど、一番年上の子が大学生という妙齢プラス××年みたいな大人の女性には合わないんじゃなかろうか。同年輩の女性の御意見求…いや、やめておこう、いろんな意味で怖そうだ。とりあえず、前作までと違くね?とイマドキ風に呟く中年なのであったよ。
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2010年05月05日

20世紀の影法師

 日記を始めて9年とちょっと、ついに1ヶ月間書かないで過ごすという怪挙を成した。いや、仕事はテトリス最終面、気温の乱高下と日照不足で体調は最悪というコンボくらって何も為していない結果なんだが、そう言っちゃうと身も蓋も無いじゃないですか、ねえ。

 で、ようやく迎えたゴールデンウィーク。しょせん完全に休むことは出来ないのだが、まずは陽気が良くなってきたのでもぞもぞと活動開始。冬眠部屋を片付けつつ、積本の山から1冊取ってみた。
 『20世紀の幽霊たち(ジョー・ヒル)』
 なwんwだwこwれw
 …つか、やめときゃよかった。
 短編なのにキレが無い、ショッキングなネタを扱ってる筈なのに驚きも無い、だからってしみじみとした情緒があるでもないというナイナイ尽くし。牛のヨダレの詰まったタンクの中にスティーヴン・キングを監禁して書かせたらこうかね…と思ってたら、読み終えて驚いた。
 息子だぁ?キングの?
 あ〜…え〜…嫁さんに箸棒な代物を書かせるだけじゃ足りなかったのかね。これまで投げ捨てた本の最長不倒記録を彼女と競いかねんよこれ?

 しかし、と落ち着いて考えてみるに、遺伝子って不思議な作用をするもんだなあとしみじみ。
 画家や写真家、俳優、音楽家やスポーツ選手には鳶が鷹どころか鷹が不死鳥を産んだみたいな素晴らしい二世の例が多いのに、こと作家に関してはほとんど無い。あ、映画監督もだな。
 専門的な学習が存在しないぶん、ベースの才能よりも経験に左右されるってことなのかな。誰か研究しないかなこれ。
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2010年03月21日

風呂ンティア仲間!

 マンガ大賞2010の発表を見にサイトへ行ったら、『テルマエ・ロマエ I』が受賞していた。深く納得。いや、他のノミネート作品はまるで知らないんだけどさ(笑)半月ばかり前に買ったこれは実に面白かったから。
 ストーリーは、割とシンプル。ローマ時代の浴場設計士が現代日本にタイムスリップし、そこで出会った事物を戻って再現する…の繰り返し。なんだけれど真面目なローマ男が銭湯だの温泉だのユニットバスだので受ける衝撃と、それを古代の世界で再現した結果がなんとも可笑しい。そして彼と遭遇するお人好しの「平たい顔族(日本人)」たちの、微妙に繋がらない遣り取りが微笑ましいったらない。
 しかし真面目に歴史をひもとけば、こと風呂に関する限り古代ローマと日本ほどそれを重要視し洗練していった民族は無いのじゃなかろうか。アルプスから延々水道を引っ張って巨大な共同浴場を作り日々通っていたローマ人と、神田上水で朝な夕なに沸かした湯屋(ゆうや)に通っていた江戸の人々、いずれもそこで会話を楽しみ本を読みゲームをしていた…と思うと千年単位の時を超えて親しみが沸いてこようってもんじゃあねえか、ようルシ公。<をい
 さらに考えを進めてゆくに、塩野七生氏の著作を引くまでもなく、帝国の衰亡とともに上下水道は整備が滞りやがては打ち棄てられ、結果としてヨーロッパには黒死病をはじめとする疫病の蔓延が起こった。キリスト教絶対支配下における暗黒時代の到来、かつはその後の世界史を語り今後の指標とすべく歴史上の二大風呂大国の邂逅を描くというのは大いに意義あることと…って、主人公の大上段癖が伝染ってるやん、おい(笑)
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2010年03月12日

そして夜明けは来ないだろう

 まだ十代のその昔、ドがつくほどハマって読みふけった作家が、ある日ショッキングな事を述べられた。正確に記憶してるワケではないから要旨になるけれど、以下のように。
 「作家というものは、若い頃は湧き出るアイディアで作品を生み出す。しかし年老いてくると斬新な案が尽きてしまう者が多く、経験に培われた文章力を用いて料理し直して見せるようになる」
 スティーヴン・キングがそういう作家になったのは、いつからだったのか。
 確か『IT』とかあのへんの、やたらに長いのを書き始めた頃にはもう、そんな気がしないでも無かった。丁度こっちの体力にいろいろ問題の生じた時期だったこともあったので、そこからずんずん疎遠になって、最近文庫で出た短編集を手にするまでまるで意識にのぼらなかったのだが。
 『夜がはじまるとき』。
 直前に出た『夕暮れをすぎて』の、これは見事なセルフコピーだった。構成も似たり寄ったりで、しかもほぼ全ての作品に於いて前者のほうが出来がいい(昔のアンソロジーに収録された作品を除いて)。何かこう、幕の内弁当のランクが違うのを並べたと言ったらイメージかもしらん…と、感興も何も無くなってはたと気付くに、かつてわくわくと読んだ初期短編の佳作良作名作がずらずらと脳裏に浮かぶ。作家なればの「タッチ」というレベルではない、同工異曲、まさにそれ。
 …阿刀田高さん、貴方が短編小説を(ほぼ)棄てたことに落胆し不平を鳴らした若き日の僕をお許しください。いやマジで、好きな作家がこんな風に年齢を重ねたと知るのは辛いっすなあ。
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2010年02月15日

ここしばらくで読んだ本・コミック編

 って、年明けからこっち、読んでも落ち着いて感想書いてる暇がNeeeeee!ってなデスマ進行なのだ。Twitterっていいかも…とか、ふと遠くを見る目でリアル呟きなう。

 『鋼の錬金術師 24』『百姓貴族』。
 前者の面白さはこれまで幾度も語ってきたが、クライマックス驀進中の今なお衰えを知らぬそれには最近めっきり畏怖さえ感じる。このまま無事に突き抜けて、天晴れ平成のモニュメントたるのか?そうなってくれるよね?と、何か祈りじみていたりするのは裏切られ続けて臆病になってしまったからかしら。嫌ぁね。う・ふ。
 …何か脱線しかけたな。まあいい。後者。
 これぞ真のド田畑マンガ!
 …すいません、もう言いませんorz
 つか主として牧畜を描いてるんで、田畑のほうは今後のネタに期待だ。地にしっかりと足をつけた者のみが語れる、ワイルドにして破天荒な百姓ライフをずんずん展開して戴きたい。
 しかし、他地方の方ならセンス・オブ・ワンダー的驚愕に充ちているのだろうけど、地元民にとっては意外と「うん、あるな〜」な部分が多いのは、感動が目減りするようでちと悔しい。市の中心を流れる川にシャケが上って来てホッチャレるわ、街中を鹿が走るわ、ごく普通の住宅街である我が家の周囲でさえ1mぐらいの青大将が道路でぺったんこになってたりするわってのが200万人の住む県庁所在地なんだから、如何ともし難いんだけどね。
 『宗像教授異考録 十二
 忌部神奈女史の露出が増えていい雰囲気…なのはさておき、地底探検ネタは少し重なり気味だよなと思いつつ読み進む最終編「神の背中」。言葉少なに語られる一人の青年の人生と、遥か古代の人が残した厳にして無慈悲なる神の姿にはしみじみと読み入らされた。やっぱり上手いんだよな、この人。
 『スフィンクス (ここではない・どこか 2)
 史上最も名高いこの怪物に、この解釈は凄い!と感じ入った表題連作。神々の齎す不条理に抗わんとする語り部の声は誰にも届かず、寂寥あるのみの幕切れが切ない。
 おかげをもって、後半メインパートの「世界の終りにたった一人で」の平凡にして非凡な日常の物語がちょっと霞んでしまったかもしれん。しかし作中、昂然と「独り」を語る老いた女流画家の姿に作者を重ね鼻の奥にツンと来たのは、安直にして失礼の誹りを免れないだろうか。
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2010年01月11日

リッキー・ティッキー・タビー♪

 『夏への扉』の新訳版が出たと聞いた。
 ブラッドベリ、アシモフ、クラーク、そして何を措いても…のハインライン。SFに踏み込む契機となった『宇宙の孤児』とともに神作品(当時はそんな言葉なかったけど)として崇め奉りイコン化しているけれど、確かに訳されたのはずいぶんと昔、うつくしき言葉もて綴られていても当今の読み手に供するには難しくなっているかもしれないな。
 と、考えてみてふと思ったのだが、本作の主要モチーフって実は究極にヲタ好みなんじゃないだろうか。幼女と猫とタイムトラベル、後で出てくるロボットはいわばメイドさんだ。
 やっべ!アニメ化されたらどうしよう!
 …え〜、その節はぜひ、テーマ曲は直球に山下達郎のアレでお願いします<そんだけかい!
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2009年10月26日

未来へのメッセージ<予定ともいう

 今日は休日。床屋で顔をあたってもらってさっぱりし、書店をかるく徘徊して帰宅。とはいえ最近は新刊のほとんどを通販に頼っているので、ほぼウインドウショッピング状態…の筈が、やっぱり取りこぼしはあるものでかるく一抱えほど購入したが。<駄目人間一号
 うち一冊は久々に目にするタイプのSFアンソロジー『時の娘』。リチャード三世についての傑作ミステリと同タイトルでちと面食らったが「ロマンティック時間SF傑作選」ということで納得。『ジェニーの肖像』『たんぽぽ娘』いずれも愛しい娘たちの物語であったよ、うん。
 後者の紡ぎ手ロバート・F・ヤングが1本入ってるのが嬉しいところでもあるし、なるべく早めに読みたいな。
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2009年10月10日

とざい、とーざい。

 『大奥 第五巻』を読む。史実に於いても強烈極まりない印象を残す犬公方・綱吉の後半生を描く巻。昼ドラよろしく極めて生臭く始まったこの段が、実は一人の女にとって如何に過酷なものであったかを、その身に負わされた責務「出産」に集約していくあたりがもう物凄い。愛児の死を嘆くもならずただ次々と男を宛がわれる彼女を、救い出せる者は誰一人無いのだ、現実世界の遊女でさえ身請けの機会はあるというのに。さらにその後に来る閉経という一生理現象をかくも無残に描いた話がかつてあったろうかと、作者の容赦ない筆に感服するばかりである。
 そして後半、元禄といえば…な一大イベント『忠臣蔵』。このテロ事件(と、あえて言うが)については故・杉浦日向子氏の『吉良供養』(『『ゑひもせず』所収)に詳述されているが、ここでも男の論理の暴走として真っ向憎む綱吉ひとりが炙り出される寂寥といったらない。実際、仇討を唱えながら先触れも無しに無防備な屋敷に押し入り、主君を守ろうと必死で立ち向かう人々を集団で惨殺、死体をさえ辱めた鬼畜の所業としか思えないのだが。げに情け無きは演出過剰な舞台に踊る情報弱者という話だわな、昔も今も。
 そして今だ姿の見えない家宣・家継の登場を前に、物語の発端がちらとその才を見せるワンシーンがあってちょっと一息。男女逆転世界の行く末と史実のアレンジ、さていかなる道行きになりますやら、まずは柝の音あっていったんの幕とかや。
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2009年10月01日

ヴィンランドまで何マイル?

 『ヴィンランド・サガ 8』読了。感想は一言。ええええぇぇえエエェえ?<いや言葉じゃねえだろそれ
 いやまあ、驚くしかない展開である。奸雄アシェラッド、己が矜持と策謀のために凄絶な死を遂げるの段。とはいえそれが為されてしまえば、後はものいわぬ骸ひとつ転がるのみ。主役が霞むどころか何処に居るんだか分からなくするレベルの有り余る存在感に対し、あまりに呆気ない最期だった。
 だがそれゆえにこそ、喪失感という「虚ろ」の描写が生きる活きる。単純な憎悪だけではない、だが情ではない、かといって執着とも断じきれない年月の積み重ねが一瞬にして断ち切られた衝撃は、読み手にも冷えびえと伝わってくる…のだが。
 トルフィンの反応が、さのみ意外性が無いっつーかアリガチっつーか。亡き者の言葉のとおり、仇討を除いたら何も無い人生送ってきてんだものな〜としか。だからって持って生まれた拠り所たる「戦士」の分まで忘れてしまうっつーのはやはり情け無い気がせんでもない。いや、積極的にする(笑)巻も8まで重ねて今だに主人公としての華は無く、語り部の役もいまひとつ果たしていないトルフィンの、明日はどっちだ?
 いや、たぶん、きっと、願わくばだけど、ず〜〜〜っと東のほうなんだろうけどね。
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2009年09月29日

夏の終わりに怪談も善き哉

 めっきり秋めいてきて夜風が冷たく、川にはホッチャレ流れる今日この頃。む、いきなり浪漫の欠片も無くなってしまったのう。手にした本は『幻想綺帖 一(朝日新聞出版)』波津彬子さんの麗しき最新作だというに。
 特に気に入ったのは『嵐の夜に』。モンゴメリの原作は読んだことがなかった、というか「こんなモノも書いてたのか」と驚きつつ入って、小味の利いた展開に満足。ありきたりな幽霊譚なのに、クライマックスへ至る演出が上手く盛り上げてくれる印象。実写でミニドラマとかにしたら良さそうだと思うがどうかな。
 そして古き良き名作怪談をコミック化という試みとなれば鉄板ネタの『山月記』。この人一流の耽美な世界になってるが、やはりというべきか虎と化して消えてゆく男の悲哀は見事に描き出されている。寂寥と憂愁漂う幕切れは、原作を最初に読んだ時の心地を蘇らせられるものがありましたよ、うん。虎は微妙に可愛いが(笑)
 キャラで好ましかったのはサキの『開いた窓』の少女。原作だと可愛げもヘチマも無い性悪糞ガキだが、波津さんの筆にかかると毒気はあるものの困った悪戯お嬢さんで許せてしまえそうなところが不思議だ。現実に傍にいたら、やっぱり堪らんだろうとは思うけどね。
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2009年08月27日

骨抜き探偵、森をゆく

 『密林の骨(アーロン・エルキンズ/著、青木久惠/訳)』読了。うーん、ギデオンが主人公である意味が分からんぞこれ。根底にあった過去の事件はみっちり描いてあるけれど、ネタ振りが過ぎて現在の事件がお留守というかアンチクライマックス。環境の描写も激賞されるほどのもんじゃ無ぇというか『暗い森』の足元にも及ばない。何より骨についての講釈がボリューム不足なんてモンじゃねえ。これじゃスケルトン抜きで普通の探偵だよ。

 とか不平たれていたら、思わぬところで笑いのツボに出くわした。最近めっきり画一化してるスパムメールにはたいがい飽き厭きしていたが、本日ひさびさの逸材にめぐり会ったんである。
 『幅広い奥さまが全国から集まりました!!』
 要は人妻相手の出会い系サイトの広告で、年齢を幅広く集めましたよと言いたいらしいが…どう見てもデ●専です、本当に以下略。つまんねー一言でげらげら笑えるのは加齢効果なのかもしれんけど、まあ些細なネタで愉快になれるのは悪いこっちゃないやね。
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2009年07月09日

洗浄のメリー・クリスマス

 ねこまが勤め先の飲み会で不在の夕。ラーメン屋で晩飯をしたため、ひとっ風呂浴びてビールの後は寝転んで読書というぐだぐだオヤジライフを満喫する。ああ、ささやかな悪徳が心地良いのう。しっぺ返しはいずれ己の腹に来ますがorz
 手にした本は主婦探偵ジェーン・シリーズの最新刊『カオスの商人(ジル・チャーチル/著、新谷寿美香/訳、創元推理文庫)』。シリーズの訳をずっと手がけてこられた浅羽莢子氏が亡くなり、新担当に交代しての初回である。好きな作品だけに不安ひとしお、酒の力を借りて乗り込む思いも無いではなかったのだが。
 うん、イケてます。大丈夫。
 最初は心配のせいか微妙な違和感を感じたのだけど、すぐに話に引き込まれてクリスマスの喧騒の中、またもやご近所や縁者とのトラブルを背負って日々に追われるヒロインと合流。いやはや、専業主婦って大変な仕事だわ。たぶんこれはお国柄には関係無いんだろうが。
 んでもってこれまた例によっての殺人事件、解決までの道のりも等身大で読み解けて爽快。軽やかに一気呵成できる楽しみを味わえたのは嬉しくまた喜ばしい。天国の浅羽氏もご照覧あれ、作品の命はきちんと継承されてますぜ。
posted by 司葉柾樹 at 00:00| Comment(0) | 読書